現代の家は、優れた断熱性能を持っていることが当たり前になっています。
断熱性の高い家は、一年を通して快適な室温に保ち続け、エアコンの稼働率を下げることで節電や環境負荷の低減にも貢献しています。
家計にも環境にもやさしい断熱性の高い家。それだけでなく、人間の体にやさしい点も、特徴の一つです。実は、断熱性の高い家を選ぶと、病気になるリスクを下げられるといったメリットもあるのです。
「高断熱の家に住めば健康になる」といわれても、すぐには納得できない人もいるでしょう。
そこで今回は、有病率と断熱性の関係から、高断熱の家を選ぶと健康的な暮らしが送れる理由について解説していきます。
有病率って何?
有病率とは、「何らかの病気になっている人の割合」のことです。
計算方法は単純で、「集団内で病気になっている人の数」を「集団の人数」で割って求めます。
普段目にする機会のない専門用語ですが、有病率と住宅の断熱性に関連性があるかどうかは、国際的にも注目されているテーマの一つです。
たとえば、ニュージーランドでは「断熱改修をした家とそうでない家で暮らした場合、住民の健康状態にどの程度差が出るのか」について調査されています。
その結果、断熱不足が健康に悪影響を与えるという調査が報告され、高断熱高気密な家づくりが推進されるようになっています。
こうした調査は、日本でも行われており、住宅の断熱性能が高くなると有病率が下がることがわかっているのです。
データから見る高断熱住宅の意外なメリットとは
・断熱性能の高い家に住むと高血圧のリスクが下がる
住宅の断熱性と健康の関連性について、慶應義塾大学の伊香賀俊治教授は「室温がもたらす血圧への影響」に関する調査研究を行いました。対象としたのは高知県と山口県に住んでいる約200人の方です。
これによると、「リビングの室温が10℃低くなると血圧が平均4.3mmHg高くなる」という結果になり、断熱性の低い寒い家で生活していると、それだけで高血圧のリスクが上がってしまうことがわかりました。
医学的に見ても、人間の体は寒くなると体温を逃さないよう血管が収縮する作用があります。血管が収縮すれば、血圧が上がりやすくなるので、断熱性の低い家に住んでいると高血圧のリスクが高まることも納得できるでしょう。
さらに、この調査では住民が高齢であるほど、室温と血圧の影響が大きくなることも指摘されています。
調査研究によると、40歳未満の方では室温による血圧の差はほとんどみられませんでしたが、40代以上になると影響を受ける人が増えていき、血圧も5mmHg弱ほど高くなりました。
さらに70代以上の方は、7mmHg以上も高くなり、高齢の方ほど影響を受けやすいという調査結果が出たのです。
最近では、家の中の急な温度変化で心筋梗塞や脳こうそくのリスクが高まる「ヒートショック」による事故が問題視されています。断熱性の高い家は、部屋ごとの温度差が生じにくいため、ヒートショックも防げることもメリットのひとつなのです。
高齢になってから家を建て替えるのは大変です。健康リスクを考えると、最初から断熱性能の高い家に住む方が賢い選択といえるでしょう。
(※1)KAKEN:科学研究費助成事業データベース:健康維持便益を統合した低炭素型居住環境評価システムの開発
https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-23246102/23246102seika.pdf
・アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎の有病率も改善
2011年に発表された、健康と住まいの断熱性に関する調査をご紹介します。(※2)
こちらの調査は、特に断熱対策をしていない一戸建てから、国が定めるエネルギー基準をクリアした高断熱住宅へ引っ越した、全国1万人の方を対象に行われたアンケートです。
アンケートの内容は、アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎、気管支喘息などの疾病がある方に、引っ越し前と引っ越し後で変化があったかを質問しています。
調査の結果、高断熱住宅へ引っ越し後、さまざまな有病率が改善されていることがわかりました。
たとえば、アレルギー性鼻炎は「27%」も改善、アレルギー性結膜炎の有病率も「33%」が改善、さらにアトピー性皮膚炎は「59%」改善、気管支喘息は「70%」も改善したという調査結果が出たのです。
高気密・高断熱の家は、そのままだと外の空気を取り入れにくいため、高性能な換気システムを備えているケースが大半です。
最新の換気システムは、アレルギーの原因となるほこりや花粉なども除去して取り入れますので、室内の空気をきれいな状態に保ちやすくなります。このため、アレルギー物質に起因する有病率も、大きく改善したと考えられるのです。
(※2)J-STAGE:健康維持がもたらす間接的便益(NEB)を考慮した住宅断熱の投資評価
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aije/76/666/76_666_735/_pdf
・その他6つの疾患に関する有病率も改善
上記のアンケートでは、アレルギー物質が直接関連しない疾病についても調査されています。(※2)
結果からいうと、以下6つの病気すべてで有病率が改善しています(括弧内の数値は改善率を示します)。
・高血圧性疾患(33%)
・関節炎(68%)
・肺炎(62%)
・糖尿病(71%)
・心疾患(81%)
・脳血管疾患(84%)
断熱性能の高い家で暮らすと、高血圧になるリスクが抑えられる点については先述の通りです。高血圧性疾患が改善されることはもちろんですが、その影響からか、心疾患や脳血管疾患などの有病率改善にもつながっているのではないかとみられます。
その他の疾病に関しては、さまざまな要因があると想定されますが、いずれにせよ断熱性能の高い住宅で生活すると、病気のリスクが下がるという結果になったのです。
・病気になるリスクが下がれば将来の医療費も節約できる
断熱性の高い家で暮らすと、冷暖房費を削減できることは以前からいわれていますが、上述の通り病気になるリスクも減ることから医療費も節約できますし、また病気になったことで被る経済損失を抑えることにもつながります。
先ほど紹介した「健康と住まいの断熱性に関する調査」では、こうした観点から具体的に削減できる金額についても算出しています。
たとえば、年収が約450万円の中所得世帯が、高断熱住宅に住んで健康で居続けた場合、年間約2万7,000円分の損失を抑えられると算出されました。(※2)
この計算では、健康保険による自己負担率を3割として算出されていますが、社会的な負担を加味すると1世帯あたり約5万9,000円の便益をもたらすという結果になっています。
少子高齢化が進み、国民一人あたりの医療費負担は、年々増加することが見込まれています。
少し古いデータですが、2009年の一世帯あたりの年間医療費は約67万円でした。
高断熱の家に住むことで、健康維持の便益が年間約5万9,000円もたらすとすれば、医療費負担の軽減など社会的にも大きく貢献すると考えられるでしょう。
まとめ
高断熱住宅に住むと、さまざまな病気の有病率を下げられることがわかりました。
人生100年時代の現代日本では、健康はいくらお金を積んでも手に入らない貴重な財産です。
高齢になればなるほど室温の低さと健康リスクの関連性は大きくなるため、将来のことを考えるなら、断熱性の高い家を建て暮らした方が、末永く元気に暮らせることでしょう。
病気になりにくい健康住宅について知りたい方は、伊豆エコまでお問い合わせください。